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新型コロナウイルスの感染拡大で、医療の最前線で感染患者の命を救う看護師らの労働・生活状況が厳しさを増している。マスクや防護服などの深刻な不足に見舞われる中、一刻を争う医療現場の対応に追われ、院内感染の恐怖が常につきまとう。一方で、休校措置が続く子供のために仕事を休まざるを得なくなる人もおり、職場環境の悪化を招いている。周囲から家族が差別的扱いを受けているとの悲痛な訴えも出ている。
「まだ軽症者が多く、ナースコール越しでも対応できるが、重症者が増えれば、マスク、ゴーグル、ガウンを身に着けて頻繁に病室へ入らなければいけない。自分も感染してしまうという恐怖心は強い」
東京都内の病院で働く看護師の女性(45)は、不安をぬぐい切れない。入院患者は日々増え続け、女性が働く一般病棟も新型ウイルス専用病棟に切り替わった。今後は重症者でベッドが埋まることも予想される。頻繁なたんの吸引作業や介護支援、人工呼吸器の管理などの負担が格段に増す。
受け持つ病棟のベッドは約40床で、担当の看護師は20人弱。妊娠や持病を抱えるなどの理由で、別の病棟へ異動となった同僚らの補充はないままだ。週1~2回の夜間勤務は看護師3~4人で維持している。
女性は普段朝6時半には家を出て、帰宅できるのは夜7時ごろ。どんなに疲れていても家に帰れば、小学生と中学生の子供の育児や家事も待っている。
「マスクは使い捨てが理想だけど、今は1日1枚。このままの勤務環境が続けば、家庭にウイルスを持ち込み、家族にうつしてしまうのではないか」。緊張感は常に消えない。
経済協力開発機構(OECD)によると、日本の病床100床当たりの臨床看護職員数(2016年)は86・5人。スウェーデン466・1人、アメリカ419・9人など他の先進国と比べ、人員の圧倒的な少なさが際立つ。
日本看護協会は人員不足に対応するため、資格を持つものの勤務していない潜在看護師の復職支援を進めるが、窮状は続く。
同協会の福井トシ子会長は今月3日の会見で「感染症患者を担当していない看護職にも多大な業務負荷がかかっている」と医療現場の実態を強調。数十人の入院患者を看護師数人で見るといった夜勤体制の現状についても「看護職の免疫力低下を招き、感染しやすい状況を作ることになる」と危機感をあらわにした。
実際に集団感染を起こした永寿総合病院(東京都台東区)では、感染者191人のうち医師が8人だったのに対し、看護師・看護助手は48人に上った。
看護師や介護職員らでつくる日本医療労働組合連合会の調べでは、マスク不足への苦悩や不満が目立った。医師が1日1枚なのに対し、看護師は2日に1枚というところもあり、「使用済みのマスクを『ビニール袋』にしまい、2日使用することの感染リスクを考えると納得がいかない」との意見が寄せられた。
深刻だったのは、子供の休校措置による影響だ。総じて看護師の2割が休暇を取らざるを得ず、外来休診・新規患者の受け入れ停止に追い込まれたり、休んだ看護師の分、他の看護師が長時間労働や夜勤回数の増加を強いられたりしているケースも出ているという。
「夫が会社から出勤を停止された」「子供の保育所から通園を拒否された」。感染リスクと隣り合わせの職場のため、家族が偏見や差別的扱いを受けているとの訴えも相次いだ。
日本看護協会には、感染した看護師が心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥った事例や、子供がいじめを受けたとの報告も寄せられている。「最前線で闘う看護職や医療機関へ、エールを送ってほしい」。福井会長はそう呼びかけた。